2月10日(土)14時より、高志の国文学館において、翁久允と竹久夢二が豪華客船の船旅で味わった食について、料理研究家の早坂勝氏の講演会が開催されました。特別コレクション室において展示紹介している日本郵船「秩父丸」と「龍田丸」のディナーメニューは、昭和6年(1931)、 翁久允と竹久夢二のアメリカへの旅の記録としても、また昭和初期の船旅の様子を伝える資料です。

メニューは、 当時の船旅がどのようなものであったか、また大変豊富な情報を与えてくれます。翁久允が、メニューにペン書きで、妻とこども3人の家族にその日の様子を書いていること、また横浜港からハワイまでの全航路の夕食のメニューが残っていることも昭和初期のフランス料理の様子を知る上で貴重と言えます。

〜「秩父丸」のメニュー〜

 

 

「食の時間旅行ー翁久允と竹久夢二の豪華客船アメリカ旅行」

〜日本郵船の豪華客船のフランス料理と、日本における西洋料理への影響〜

 

 

 

「1931年、日本郵船「秩父丸」及び「龍田丸」米国渡航におけるメニュー解説」

はじめに、日本郵船豪華客船「秩父丸」および「龍田丸」米国渡航におけるメニュー解説を行うにあたり日本郵船について調べました。

日本郵船の基本コンセプト:<企業として、豪華客船の船長、事務長、司厨長(料理長)は世界に通用する一流である事> <パッセンジャー・オールウェーズ・ライト>です。 お客様の言うことは、無理な事でも正しいこととしてサービスする。この誠実さが旅慣れている外国の知名の士たちの評判を高くしたといわれています。

日本郵船が大切にしたのは、航海で一番大事な食事が美味しいことである。

そこで、司厨長は、世界の有名ホテル、レストランで研修させた。乗客の3分の2は外国人なので食事と同時に美味しいパンが必要になる。パンを焼くシェフはロンドンに派遣した。さらに、後年、横浜支店にフランスからシェフを招き、コック養成所を作り、一流のシェフ養成を行っています。ちなみに、当時の日本郵船社長の月給、1,200円、フランス人料理長1,000円であったようです。

「秩父丸」、1928年2月6日起工、1929年5月18日進水開始、総トン数17,527、全長177.77m、幅22.56m、乗組員327人、総客数822名(ー等226名、二等96名、三等500名) 合計1.149名  1930年(昭和5年)4月4日、横浜〜サンフランシスコを結ぶ太平洋横断航路(処女航海)5,500マイル、12日間9時間4分の記録を出す。(「龍田丸」も同規模) 寄港地、横浜、神戸、香港、ホノルル、ロスアンゼルス、サンフランシスコ。

船舶は通常、運航寄港地において、飲料水、食材(穀類、肉類、魚介類、野菜・果物類等)、飲料(ジュース、ワイン、スパークリングワイン、ブランディ、ウイスキー類等)、燃料等は、それぞれ季節による産物、名物など寄港地から積み込みます。従って寄港地の国柄により食材が様々に変化します。こうした乗船されるお客様の楽しみは船上の食事とアトラクションさらに航路による寄港地の散策であります。

日本郵船の豪華客船では、メニューは日替わり、朝、7時30分、コーヒー、紅茶、果物、8時30分朝食、12時30分昼食、19時夕食、日付変更線の通過時は甲板でパーティなども行われています。また、夕食時は、タキシードなど正装の場合もあります。

船舶の場合は、客数、乗客(一等、二等、三等)の食事様式を考慮し、メニュー内容に注意いたしました。なお、「秩父丸」と「龍田丸」のメニュー構成が一部異なっていました。

「秩父丸」のダイニング・レストランは豪華な雰囲気で食事はテーブル席(長方形)両サイドに椅子5脚の10人または、6人になっていました。冷製、温製料理のBUFFET(料理台)が配置されています。

厨房および設備内容はメニューから判断しました。

メニュー内容は、ロースト、グリル、ブレゼーが多くあります。パン、ケーキ、プッディング、アイス・クリームの種類は多いようです。設備的には、冷蔵庫、冷凍庫(氷用、食材等)、パン・ケーキ用レンジは電気ではないかと考えられます。また、厨房の中心となるレンジの燃料が電気なのか、石炭、コークス使用かは不明であります。1931年代は、石炭、コークスのレンジが主流でした。レンジ表面(鉄板)を熱し、その上に鍋類、フライパン等を乗せて煮、焼きします。また、その熱量を利用したオーブンもありました。さらに、グリル等は、チャコールブロイルではないかと考えられます。以上の事柄を考慮し、あらためてメニューを拝見しました。

メニュー解説にあたり、メニューのタイトル表現は2つあり、1931年頃の表現、及び現代使用の言葉を使用しております。

・メニューのタイトルとは、

DINNER、Hors d’Oeuvre、SOUP、FISH、ENTREE、ROAST、COLD BUFFET、EXTRA、SWEETであります。

・1931年、メニュー作成当時の言葉を同世代の前後に出版から引用しました。

大正12年(1923)、秋山徳蔵著『仏蘭西料理全書』(秋山編纂所出版部)。 秋山徳蔵は、精養軒、宮内省主厨長(大正~昭和初期)を務めた料理人で天皇の料理番として知られる。

昭和2年(1927)、ホテルニューグランド横浜、総料理長サリー・ワイル(1897-1976)の開業時のメニュー。

昭和13年(1941)、『標準佛蘭西料理全書』(日本司厨士協同会編)。フランス文学者山本直文(1890〜1982)が主に編集。

昭和28年(1953)、『西洋料理』(柴田書店)、深沢二朗(1894−1962)は、西洋料理店・東陽軒の創業者深沢為次郎の次男で、東陽軒で父から手ほどきを受けた後、1912年に築地精養軒で西尾益吉の弟子のなり、女子栄養学園講師を務めた。

以上の書物から言葉を選んでおります。さらに解説の詳細は現代語です。

・タイトル区分の料理名です。

・料理解説は、現代語を主に料理名、調理法、食文化などを説明しております。中には出処不明なスペル、間違い、英語と仏語のミックスなどもあります。

“DINNER”を「夕食」とした理由は、通常、正餐とは、Hors-d’œuvre「前菜」、「食前酒」別の場所です。食事は、「スープからロースト、温野菜」までのコースを食事となります。次は、食事終了の片付ける時間帯に行う余興時は、デザートの始まりです。「サラダ、アントルメ、甘味、果物、珈琲」であります。 メニューに、“COLD BUFFET”や“EXTRA”が含まれています。従って正餐メニューではなく、夕食メニューが正しいと考えました。

Hors d’Œuvre            冷摘物(つまみもの)、温摘物(秋山)、秋山徳蔵は、次のように説明しています。 <Hors d’Œuvreを正餐に加えてはならない。但し、二つの例外がある。 その第一は、 新鮮なCAVIAR [カヴィアル]、第二はHUITRE [ユイートゥル] 牡蠣だけである。但し、昼食時は、前日の材料によりオードブルを作り提供し、また、様々な料理に発展する。> 「前菜」とは、S・ワイル、山本、深沢の表現であります。

Soup [スープ]             羹汁、清羹汁、濃羹汁、(秋山、S・ワイル、山本、深沢)

Fish [フィッシュ]        魚介料理の共通

Entrée [アントレ]       肉料理の共通

Roast [ロースト]        燔焼(ばんしょう )料理(秋山)、焙焼(S・ワイル、山本)、蒸焼(深沢)

Poêlés [ポワレ]         炒煮(いために)料理(秋山、S・ワイル、山本)、鍋炒焼(深沢)

Pochés [ポッシェ]     湯煮(ゆに)料理(秋山)、ワイン酒煮(山本、深沢)

Grillés [グリエ]         灸焼(きゅうしょう)料理(秋山、深沢)、網焼(S・ワイル、山本)

Frits [フリ]              揚物料理の共通

Gratins [グラタン]    焼付料理の共通

Braisés [ブレゼ]       煮込料理、蒸煮(秋山、S・ワイル、山本)

Blanchis [ブランシ]   白煮料理の共通

Sauté [ソテ]            脂(あぶら)煠(いた)め(山本)、煠焼(ようやき)(深沢)

au beurre [オ・ブール]   牛酪焼(深沢)

Cold buffet               冷製料理

Extra [エキストラ]      予備料理、特別料理

Sweet [スイート]       甘味、デザート

Sauce [ソース]          添汁、掛汁(秋山)

Sirloin [サーロイン]    疑繊肉(ぎせんにく)

Rib of beef [リブ・オブ・ビーフ]  牛の背肉

Upper-cut of  sirloin [アッパーカット・オブ・サーロイン]   最上肉

Filet de boeuf [フィレ・ド・ブフ]         牛繊肉(うしせんにく)

Contrefilet [コントルフィレ]   内ロース

Veau [ヴォー]              犢牛肉(こうしにく)

Garniture [ガルニチュール] 附け合せ

Laitue [レチュー]          萵苣(ちさ)、レタス

Maïs [マイース]             玉蜀黍(なんばんきび)

解説の問題点は、

すべてフランス語まじりの英語の表現であること。 料理別に材料、調理法、色彩、食文化などが極端に少なく、メニュー表現が短くなっています。解説の中で一人の料理人として単語を拾い、何を考えた料理か、前後の料理名、その関連性、および食文化に関する部分、アメリカの地方料理。フランス料理を参考にできるだけ忠実に解説を心がけました。

1. 料理名には材料名と地域名、人名のみの記載のもの。

2. 料理名に材料量と~風のみの記載で調理法がないもの。

3. 材料名と飾り台“Socle”だけで調理法のないもの。

4. パン類の記名はなくスティームド・ライス「ご飯」はある。

5. お造り、茶わん蒸し、うどん、そば等の特別料理があります。

6. スペルの違い、料理名で不明のもの、調査継続のもなどがあります。 Mousses Moscotte、Winechester Pudding、StambaIe Pudding、スタンブールプディング、Hortoise Saladなど。 例えば、”Torotise Salad”の誤植であれば、亀の甲羅のように盛る?もしくは、草食の陸ガメが食するようにたっぷりと盛ったサラダのことか。

7. 日本語表現は、1928年造船「秩父丸」、1927年造船「龍田丸」と同時期に1927年開業のホテルニューグランド横浜のオープニングメニューの表現を参考にしました。

なお、メニューの翻訳および解説は、後日、本財団より冊子として出版します。

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